鞄づくりは豊岡のモノづくりの原点
豊岡の鞄は、およそ2,000年前の西暦27年に、アメノヒボコが伝えた柳細工のカゴがルーツといわれています。奈良時代には、円山川流域に自生するコリヤナギで盛んにカゴが編まれ、江戸時代に「柳行李(ヤナギコウリ)」生産の隆盛をむかえました。
その伝統技術と流通経路を基盤に、新素材への挑戦とミシン縫製技術の導入によって、豊岡は鞄の一大生産地に成長。平成18年には、特許庁の地域ブランドとして「豊岡鞄」が工業製品初の認定を受けました。現在、豊岡市には300を超える鞄関連企業があり、豊岡の鞄は全国生産の7割超のシェアを占めています。
鞄の専門店や工房などが軒を連ねるカバンストリート。珍しい鞄の自動販売機やカバンのオブジェ、鞄の形のベンチやポストなどがあり、散策するだけでも楽しい。
[写真左]カバンストリートのランドマーク「Toyooka KABAN Artisan Avenue(豊岡鞄 アルチザン アベニュー)」。1階は豊岡産鞄のさまざまなブランドを取り扱うショップ、2階は鞄のパーツを販売する専門店、3階は鞄職人育成専門校となっている。
[写真右]3階のスクールまで吹き抜けになった店内。ミシンの音や皮を抜いたり、鋲を打ち込む木槌の音がショップに響き渡り、鞄づくりの活気を伝えている。
【Toyooka KABAN Artisan Avenue】
兵庫県豊岡市中央町18-10
TEL:0796-22-1709
営業時間:11:00~18:00 ※土日祝は10:00~
定休日:水曜日
駐車場:10台程度(無料)
スクール生インタビュー
インタビュー1
山科 顕一朗さん
35歳・大阪府守口市出身
モノづくりをしたいという想いはあったものの、きっかけがなく過ごしてきたという山科さん。昨年、遊びに訪れた県立コウノトリの郷公園で、たまたま手に取ったチラシからスクールを知ることになり、介護職員から驚きの転身を遂げました。
「この年齢で一からモノづくりを学ぶことに不安もありましたが、1年で鞄職人になれるならと挑戦してみることに決めました。鞄づくりにおけるすべて行程を、自分一人で行うところにやりがいを感じます。慣れないため、先日もポーチひとつ作るのに丸一日近くかかりましたが、製作中は常に講師の指導やアドバイスがあるので安心して進められました。生徒同士でお互いに教え合うこともあり、毎日ワクワクしながら鞄づくりをしています」。
山科さんの目標は、老若男女誰でも使えて、長く持ってもらえる鞄を作ること。人があたたかく自然に恵まれた豊岡で、将来は自分の工房を構えたいと夢を描いています。
インタビュー2
木下 友花さん
21歳・兵庫県豊岡市出身
木下さんは、12人のスクール生のうち、唯一の地元出身者。大学進学のため一度地元を離れましたが、職人になる夢を叶えるために慣れ親しんだ豊岡にUターンしてきました。
「父から教えられてここを見学したときに、生徒さんたちが楽しそうに鞄づくりに取り組んでいる姿を見て、私もここで鞄づくりをしていこうと思いました。まだ学びはじめたばかりでできることは限られていますが、ミシン掛けをしているときが一番楽しいですね。先日、第一号の作品であるポーチを製作しました。完成したときには、『自分で一から作った!』という達成感でいっぱいになりました」。
他地域にある同様の学校も見学したという木下さんですが、モノも技術もそろっており、学んだ後に働ける環境まであるというのは豊岡だけしかなかったそう。それが入校の決め手になりました。
インタビュー3
赤木 孝治さん
31歳・兵庫県西脇市出身
前職では、出身地の地場産業である播州釣針の製造をしていたという赤木さん。スクールを知ったのは、偶然見たテレビのニュース番組でした。紹介されていた卒業生の作品の完成度の高さに驚き、たった1年間でこれほどの作品ができるのかと強く興味を魅かれたといいます。
「人生は一回きり。やってみようと鞄づくりの世界に飛び込みました。自分の手でモノを作るという点では釣針も鞄も同じですが、分野が全く違うので思うようにいかないことも多いです。今は、職人技のすごさに驚き、感動する毎日。鞄づくりは決して簡単なことではありませんが、1年でできる限りの技術が身に付くように情熱を持って取り組んでいます。卒業後は豊岡で就職し、鞄づくりを担っていきたいと思っています」。
できなかったことができるようになっていく過程など、モノづくりの楽しさを日々味わっているそうです。
インタビュー4
横田 惇さん
23歳・広島県広島市出身
横田さんは、4年制大学卒業と同時に、スクール入校を果たしました。大学4年生の就職活動の時期に、自分の将来や進むべき方向について悩んでいたところ、「モノづくりがしたいならやってみなさい」と背中を押してくれたのがお母様だったといいます。
「昨年、母と一緒に見学に来て入校を決めました。これほど鞄のスペシャリストが集まっている地域は他にはなく、最高の環境で学べると思ったからです。スクールで熟練の講師に指導してもらえることはもちろんですが、受講生用のシェアハウスに住む私のもとにも、時折職人の方が訪ねて来て、鞄づくりにまつわるさまざまな情報提供をしてくれます。知り合う人はすべて鞄関係者。生活すべてが鞄づくりにつながっています」。
職人の枠にとどまらず、鞄という製品を通して大きなビジネスにも挑戦したいという横田さん。その視線は豊岡にとどまらず、世界にも向けられています。
インタビュー5
奥村 彩子さん
35歳・滋賀県大津市出身
8年間会社員として勤務し、モノづくりにはまったく縁がなかったという奥村さん。お母様から鞄を作ってほしいと頼まれたことで鞄づくりへの興味に火が付きました。スクールに通うため、千葉県から豊岡に家族4人で移住。3歳と1歳の2人のお子さんを子ども園に預けて、鞄づくりを学んでいます。
「ここは、鞄づくりをするための環境や設備がそろったベストな場所。現在、基本的な作業となるミシンの練習とデッサンを行いながら、型紙作りからモノを作っています。立体物を平面図で表すことが難しく、とても苦戦していますが、指導者の先生方はどんな小さな質問にも親身になって答えてくれるので心強いですね」。
海も山もある自然に恵まれた豊岡で、鞄づくりとともに子育てライフも満喫しているという奥村さん。卒業後は、豊岡の鞄企業で働き、いずれはご主人の地元に帰る予定。そこでも鞄づくりを続けて行きたいと話します。